〜今、保育現場に欠かせない、大切な視点の学び〜
あおぞらぱれっと保育園では、藤野早織*さんを講師にお迎えし、全職員で「包括的性教育」について学びを深める研修を行いました。子どもたちが安心して過ごせる毎日を守るため、保育環境をより良いものにしていくことを目的とした取り組みです。
*【講師紹介】藤野早織さん
藤野早織さんは、小児科で10年、保育園看護師として12年の経験を持つ看護師・思春期保健相談士さんです。医療と保育の両現場で子どもや保護者と向き合ってきた経験をもとに、現在は全国の保育園・学校・自治体で研修や講演活動を行い、「子どもの権利」「安心できる大人との関係づくり」「自分を大切にする力」の育ちを支える活動に取り組んでいます。温かく実践的で、保育現場に即した語り口は多くの保育者から信頼を集めており、今回も職員一人ひとりに深い気づきを与えてくださいました。
保育の現場では、日々の生活の中で子どもに触れたり寄り添ったりする場面が多くあります。その一つひとつの関わりが、子どもにとって「安心」や「信頼」につながる一方で、大人の意図とは異なる受け止め方が生まれることもあります。今回の研修は、こうした日常的な関わりを改めて丁寧に見つめ直し、子どもがより安心して過ごせる環境を職員全体でつくるための、大切な機会となりました。
子どもたちは日々の生活や遊びを通して世界とつながり、人との関係を学びながら成長していきます。
その中で
「自分の気持ちや心地よさを大切にしてよい」
「相手にも同じように大切にしたい気持ちがある」
ということを知ることは、園生活の安心を支える大切な土台になります。
講師の藤野さんは、「包括的性教育」とは「心と生き方を支える人権教育」であると説明し、子どもが “自分の身体のことは自分で選んで決めていい” と実感できるように支えるためには、まず大人自身がその感覚を理解し、体験として知ることが重要だと強調されました。
大人がこの視点を持って子どもに関わることで、日々の小さな経験の積み重ねが、子どもにとっての「安心」と「信頼」につながっていきます。今回の研修は、その土台となる関わり方を改めて考える大切な時間になりました。
*今回の研修で、保育実践において特に重要だと再確認したポイント
・子どもと関わる時、お互いの思いが一致しているかどうかを確認する
・実況中継のような声かけではなく、子どもの返事や反応に注意を向ける・子どもの“NO”を尊重する・安心できる距離感・触れ方・タイミングは人それぞれ違う・ 気持ちはいつも同じではないことを前提に関わる
知識として知るだけではなく、日々の経験の中で子どもが“大切にされている”と感じる場面を積み重ねることの大切さを改めて学びました。
研修最後には、クラスごとに分かれて日々の保育を振り返りながら、子どもたちとの関わりについて意見交換を行いました。研修で得た視点を踏まえ、「どのような声かけが子どもの安心につながるのか」 「同意や境界線をどのように日常の保育に落とし込めるのか」といった具体的なテーマについて語り合いました。
互いの経験や迷いを率直に共有する中で、クラスごとに大切にしていきたい関わり方が浮かび上がり、同時に、園全体として守りたい姿勢も改めて確認する機会となりました。職員一人ひとりの学びがつながり、「職員みんなで子どもの安心を支えていく」という共通の思いがより強まった、温かな対話の時間となりました。
今回の研修を出発点として、こばと会は、これからも継続して様々な学びを積み重ねてまいります。
《研修で学んだことまとめノート》
1. 世界的に広がる「包括的性教育」とは?
今、世界では「包括的性教育」がスタンダードになりつつあります。 私たち大人が学校で学んできた「保健体育としての性教育」とは異なり、より広い意味での “人としての尊厳と安心を尊重する生き方” を扱うものです。
2. 「包括的性教育」3つのキーワード
からだの権利(ボディ・オートノミー)
自分の体に触れてよいかどうかを決める権利は、子どもにも大人にも等しく存在する。
同意(コンセント)
「〜してもいい?」「嫌だったら言ってね」と気持ちを確かめ合うこと。
気持ちが変わること、迷うことも自然なことであり、YESもNOも等しく尊重される。
境界線(バウンダリー)
心地よい距離感は人によって異なり、状況によっても変化する。
その“違い”を尊重しながら関わることが安心につながる。
※身体だけでなく、モノ・時間・空間にも境界線がある。
3. 対話やワークを通して、感じながら学ぶ研修
【ワーク1】アイスブレイク ― “私の好き” から始まる関係づくり
研修は、毛糸玉やぬいぐるみなど“ほっとできるアイテム”を手にしながら、「私の好き」を語る時間から始まりました。藤野さん自身が「スパイスカレーが好き」「家族で競馬に行くのが楽しみ」など、親しみやすいエピソードを交えて自己紹介したことで場が一気に和み、職員の緊張がすっとほどけていくのを感じました。
このワークで特に強調されたのは、話し手が安心できる「聞く姿勢」です。
・「へぇ」「そっか」などの自然な相づち
・目線を合わせること
・相手の感情を否定せず受け止める態度
こうしたシンプルな振る舞いが、信頼関係の土台となり、後の深い対話につながっていくことを改めて体感的に学びました。
【ワーク2】自分にとって心地よい距離感は違う――“境界線”を知る実演
次に行ったのは、“心地よい距離感”を体験しながら学ぶ実演です。職員の一人が前に立ち、藤野さんや仲良しの職員が遠くから近づいていき、「安心できなくなった地点」でストップをかけるというもの。このシンプルな実演から、次のことが明確に見えてきました。
・人によって心地よい距離は大きく異なること
・初対面か、仲の良い相手かでも許容できる距離が変わること
・近づく際のスピードや目線、声かけ一つで安心感が変化すること
ただ説明を聞くだけでは理解しにくい“境界線”の感覚が、目の前で可視化されることでより具体的に理解できた大変わかりやすい時間となりました。
【ワーク3】サイコロを使った「同意の練習」
続いて、サイコロを使った“同意(コンセント)”の練習ワーク。サイコロの出た目に応じて「ハイタッチ」「握手」「手をつなぐ」などの行為を、実際に相手に 「〜してもいい?」と尋ね、返ってきた答えをそのまま受け止めます。
・OKが出るとき
・迷いが生まれるとき
・NOが返ってくるとき
それぞれの場面で、自分の内側にどんな感情が湧くのかを丁寧に感じ取ることで、子どもたちが日々体験している“気持ちの揺れ”に思いを寄せるきっかけとなりました。
「断られるとこんな気持ちになるんだ」「OKでも、迷いながら出すOKと、明るく出るOKは違う」
といった気づきが次々と生まれ、シンプルながら深い学びの場となりました。
■ 研修に参加した元井理事長から職員へ語られたコメント
『大事なのは言葉ではなく、“子どもが大切にされていると実感できるかどうか”です。そのために、子どもの意思を丁寧に聞く姿勢を欠かさないでほしい。
保育の現場では、日々の忙しさから「早く進めなければ」と思ってしまうことがあります。しかし、例えばオムツ替えの前に、子どもの目を見て「替えようか?」と一言伝えるだけで、子どもの受け取る世界が大きく変わることは皆さん実感していると思います。0歳からの小さな積み重ねは、1〜2年後にはしっかりとした成長として現れます。
私たち大人の多くは、意思を聞かれて育つ経験が少なかったかもしれません。だからこそ、保育の現場から始める意義はとても大きいと感じます。保育園で日々「あなたの気持ちを大切にしているよ」と関わってもらった子どもは、卒園するときに “自分は大事にされる価値のある存在だ”という確かな実感を持つことができます。
その実感は家庭へ、地域へと広がり、「子どもの意思を聞くことが当たり前の社会」をつくる原動力になります。今回の研修は、人の思いがすれ違ったときに、どう前に進むかを考える大切な機会でした。 子どもを“子ども扱い”するのではなく、一人の人として向き合う姿勢を改めて学び直す時間になったのではないでしょうか。
子どもが“大切にされている”と感じられる保育を、引き続き私たち全員でつくっていきましょう。』